Fusakaアップグレードのまとめ
サマリー
Fusaka は、2025年12月3日にメインネットでアクティベートされた Ethereum の大型ハードフォークで、2025年5月の Pectra に続くその年2回目のメジャーアップグレードです。
一言でいうと、
L2 ロールアップのためのデータ可用性レイヤーを大きく拡張しつつ
各ノードの負荷をむしろ軽くするための仕組み(PeerDAS と Verkle Trees)を導入し
同時に L1 ブロックガス上限の引き上げ と トランザクションごとのガス上限キャップ によって
スループット向上
DoS 耐性
将来の並列実行(Glamsterdam 以降)への布石
をまとめて実施したアップグレードです。
また、passkey 対応(P-256)や CLZ opcode など UX や開発者体験に関わる細かい改善も多数含まれます。
結果として、
L2 向けの blob データ容量は 最大8倍 に拡張され
ロールアップ手数料はすでに 数十%〜70%程度下がっている とするレポートも出ています
ETH のバーン量も増え、「Ethereum のキャッシュフロー資産としての側面が一段強化された」と評価するレポートもある状況です
1. Fusaka とは
名称
コンセンサスレイヤー側のコードネーム「Fulu」と、実行レイヤー側の「Osaka」を合わせた造語が Fusaka。
アクティベーション
メインネット: 2025年12月3日
Epoch 411392 の slot 13164544 で有効化
ハードフォークの性質
後方互換性のないプロトコル変更(ハードフォーク)であり、クライアントはアップデート必須
約 12 個前後の EIP から構成される「束」としてのアップグレード(正式な一覧は Meta EIP-7607 にまとまっている)
主な目的
L2 中心の世界に合わせたデータ可用性の拡張
Rollup が L1 に投稿する blob データの処理方式を抜本的に変え、L2 のスループットを 8 倍レベルで拡張すること
ノードリソースの抑制と分散性の維持
PeerDAS(Peer Data Availability Sampling)と Verkle Trees を組み合わせて
「たくさんのデータを扱うのに、各ノードはすべてをダウンロードしなくてもよい」状態を作る
ユーザー体験と開発者体験のアップグレード
ブロックガス増加+preconfirmations によるほぼ即時の UX
P-256(secp256r1)サポートによる passkey ログイン対応
EVM opcode 追加や fee market の調整によるプロトコルの「掃除」
2. Ethereum ロードマップの中での Fusaka の位置付け
2.1 Dencunからの流れ
Dencun(Deneb + Cancun, 2024年3月13日)
EIP-4844(proto-danksharding)で「blob 取引」を導入し、L2 が書き込むデータを安価な一時ストレージに分離
L2 手数料は最大 90%以上削減され、「ロールアップ向けの専用バスレーン」を作ったイメージとよく説明されますKuCoin+2a16z crypto+2
ここで「L2 のデータを blob に逃がす」まではできたものの、
L2 の利用が増えると 全ノードがすべての blob をダウンロードする構造がボトルネックになりつつあった、というのが Fusaka につながる問題意識です。
2.2 Pectraから Fusaka へ
Pectra(Prague + Electra, 2025年5月7日) は、
EIP-7702 によるアカウントアブストラクション(EOA を一時的にスマートアカウントとして扱える)
EIP-7251 などによるステーキング UX・セキュリティの改善
で、「ウォレット体験」「ステーキング体験」の改善にフォーカスしたアップグレードでした。
Fusaka はその 約半年後の第2弾として、
2.3 Glamsterdam や Surge / Verge / Purge との関係
Glamsterdam(2026予定)
The Surge / The Verge / The Purge の中で見ると
Fusaka はここで
「Surge のスケーリング(PeerDAS / blob 拡張)」と
「Verge / Purge 系の準備(Verkle, state / history の整理)」
を一つのハードフォークに束ねた“橋渡し”的なアップグレードになっています。
3. Fusaka が解決しようとしている具体的な問題
3.1 L2 ロールアップの“データ詰まり”
L2 はトランザクションの実行そのものは L2 で行うものの、
最終的なデータ(ログ・ state 差分)を L1 に blob として投稿します。Dencun 以降、この blob が激増し、
L2 側は「もっと blob を使いたい」
L1 ノードは「全部ダウンロードするのはキツい」
という利害のズレが顕在化し始めていました。
3.2 ノードスペックのインフレと分散性のトレードオフ
ブロックガスリミットを上げればスループットは増えますが、
フルノードの CPU / 帯域 / ストレージ要件が重くなり
結果として「データセンターっぽい強いマシンしかフルノードを回せない」世界になりかねない
Ethereum の開発者はずっと「スケーラビリティと分散性を同時に満たす」ことを強く意識しており、Fusaka では PeerDAS や Verkle でこのトレードオフを押し返そうとしています。
3.3 UX と経済設計のラグ
ユーザー目線では
経済設計としても
4. Fusaka を構成する主要コンポーネントと EIP
ここでは、実際の EIP ベースで「何がどう変わったのか」を整理します。
4.1 PeerDAS(EIP-7594)
PeerDAS(Peer Data Availability Sampling)は、
「各ノードが blob 全体をダウンロードする代わりに、小さな断面サンプルだけを検証する」仕組みです。
ざっくり技術イメージ
これまで:
各ノードは blob データを丸ごと(row)取得して検証
Fusaka 以降
blob 全体を「行」ではなく「列(column)」方向に分割し、
各ノードはランダムにいくつかの列をサンプリング
再構成可能性(全体がちゃんとあるか)は、サンプルの成功/失敗確率から統計的に保証する
→ 全ノードがデータの断面だけを見る構造にすることで、
見ているデータ量は大幅に減る
しかし「誰も全体を持っていない」という状況は、確率的にほぼ起こらないよう設計されている
結果として、Ethereum は
blob 容量を最大 8 倍まで増やしつつ
各ノードの帯域やストレージ要求を制御できるようになります。
これが 「The Surge で目指す 100,000 TPS」 に向けた実質的な第一歩とされています。
4.2 Verkle Trees 関連
Verkle Tree とは
Merkle Patricia Tree の代わりに使う新しい state データ構造で、
高い分岐数(高 branching factor)
ベクターコミットメント(vector commitment)を使ったコンパクトな証明
が特徴です。
Fusaka で入った要素
代表的には
役割
Verkle Trees を導入していくことで、
長期的には
Fusaka 時点では Verkle 完全移行ではなく、「Verkle 時代に入るための前処理」という位置づけですが、これが Verge / Purge フェーズの実現に直結します。
4.3 ガスリミット
4.3.1 ブロックガスリミット引き上げ(EIP-7935 ほか)
複数のリサーチ/取引所レポートによると、Fusaka によって
ただし、実際の「運用上のデフォルト値」は慎重に上げていく前提で、
EIP-7935 ではクライアントのデフォルト値を 60M にする、というような保守的な設定からスタートし、
ネットワーク状況を見ながら段階的に引き上げるというアプローチがとられています。
→ 重要なのは、「ガス上限を上げることが本質ではなく、それを安全にやるためのガードレール群とセット」で入っているという点です。
4.3.2 トランザクションごとのガスキャップ(EIP-7825)
EIP-7825 は、1トランザクションあたりのガス使用量を 2^24 ≒ 16.78M にキャップする提案です。
これにより、
「1つの巨大トランザクションがブロック全体を食い尽くす」事態を防ぎ、
将来の並列実行(マルチスレッド EVM や Glamsterdam 以降の実行モデル)への準備にもなります。
開発者視点のインパクト
大型デプロイや巨大バッチトランザクションは、
「1 tx に全部詰め込む」のではなく、「複数 tx に分割する設計」が必要になります。
4.4 Blob fee market と DA 経済設計(EIP-7918 ほか)
EIP-7918 は「blob の base fee を L1 ガスコストにバインドする」提案で、
これにより
4.5 UX と開発者体験 – P-256, CLZ, calldata fee market
代表例:
P-256 / secp256r1 サポート(EIP-7951)
CLZ opcode 追加(EIP-7939)
Calldata 用の独立 fee market(EIP-7706)
こうした小さめの EIP 群をまとめてみると、Fusaka は
「L2 とデータ可用性だけではなく、ウォレット UX や zk / ロールアップインフラの開発体験も同時にチューニングする“インフラ世代交代”」
という性格を強く持っています。
5. 実際の影響
※初日〜数週間時点の観測
5.1 L2 手数料と blob 容量
各種レポートによると、
PeerDAS と blob パラメータ調整により、L2 の DA コストが 40〜70%程度削減される可能性が示されています。
実際に Fusaka アクティベーション後、主要ロールアップ(Base, Arbitrum, Optimism など)の手数料低下が観測されているとする記事も出ています。
5.2 ETH のバーンと価格への示唆
blob base fee の下限が L1 ガス価格に紐付けられたことで、
L2 が高負荷なときには ETH のバーンが増える構造が強まっています。
一部の市場レポートは、
5.3 ノードオペレーターへの影響
ブロックガスリミットの引き上げにより
1ブロックあたりの処理量とインデックス対象データが増える一方で
PeerDAS / Verkle によって「個々のノードが実際に処理・保存するデータ量」は抑制されます。
実際、Fusaka 有効化直後には、
→ これは、ブロックチェーンレベルの「大手術」をやりながらもネットワークを止めずに乗り切ったという意味で、
開発体制の成熟を示すデータポイントでもあります。
5.4 ユーザー体験とウォレット
Fusaka により
preconfirmations による「ミリ秒〜数秒レベルの事前コンファーム」基盤が整ったことで、
ユーザーから見える「送金したのにいつまでも pending」という体験は
今後徐々に解消されていくと考えられます。
6. Glamsterdam と長期ロードマップ
Fusaka はGlamsterdamのような次フェーズへの前提条件としての側面をもちます。
6.1 Glamsterdam(2026)の主役 EIP
既に資料が出ているものだけでも、
EIP-7732: ePBS (enshrined Proposer-Builder Separation)
EIP-7928: BALs (Block-level Access Lists)
gas / state の大規模な再プライシングパッケージ
といった EIP 群が Glamsterdam のコアとして検討されています
block time の短縮(12秒 → 6秒)案も議論されており、
Fusaka で太くなったブロックを、Glamsterdam で「より細かい刻みで流す」ような世界観が見えています。
6.2 Surge / Verge / Purge のステージング
Fusaka: PeerDAS と Verkle 前処理で「データ可用性」と「state の構造」を整えた
Glamsterdam: ePBS と BALs で、ブロックビルドと実行のパイプラインを整理
その後のフェーズ
7. まとめ
Fusaka は“また1回のハードフォーク”ではなく、Ethereum のインフラ構造を一段階引き上げる節目だった
データ可用性(PeerDAS)
state 表現(Verkle 前処理)
ガスと fee market の構造
を同時にいじり、「L2 中心の Ethereum」を現実的な形にしたアップグレードと捉えるのが本質的です。
スケーラビリティと分散性のトレードオフに対する Ethereum 流の回答が具体化した
単純にブロックガスを上げるのではなく、
「サンプリング」「統計的保証」「コンパクトな証明」といった暗号学的・統計的な工夫を組み合わせることで、
各ノードの負担を抑えたままスループットを上げる道筋を見せたと言えます。
アップグレードは L1 の話ではなく、L2 / インフラ / ウォレットを含むエコシステム全体の再設計だった
OP Stack の「Fusaka readiness」や、L2 各社の事前調整
passkey 対応や preconfirmations による UX 変化
など、実際にはかなり多くのプレイヤーを巻き込んだ協調行動として進んでいます。
Fusaka 自体が終点ではなく、Glamsterdam と Surge / Verge / Purge への“準備運動”
ここで得られる運用データや、PeerDAS / Verkle 実戦投入の経験が、
次の ePBS や full danksharding, 完全 stateless client の設計にそのままフィードバックされていきます。
投資・ビジネス的には、「ETH がどこで価値を回収するのか」がかなりクリアになってきた
blob fee の下限設定や L2 DA コストの見直しにより、
「L2 経済圏の成長=ETH の手数料収入とバーンの増加」に近づく構造が明確になっています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
by Keita, Fracton

